「この金融商品の平均リターンは年率10%です!」
そう聞いたときに、皆さんはこの商品についてどうお考えになるでしょうか。
その判断には、金融商品のリターンの定義が算術平均なのか幾何平均なのかを気にする必要があります。
リターンにおいて、算術平均と幾何平均はそれぞれ何を意味するのでしょうか。
算術平均リターン
算術平均は、対象となる全データを合計してデータの総数で除算することで求められます。最も一般的な平均の考え方ですね。
例えばテストの平均点を算出する際に、3人の得点が80点、60点、70点だった場合の平均点は、
(80+60+70)/3 = 70 点
となります。
では、実際にリターンで考えてみましょう。i年目のリターンをriとすると、N年間のリターンの定義式は以下となります。
算術平均リターンA=(r1+r2+…+rN)/N
この算術リターンAは、各年度の実績リターンを均してその資産の期待リターンに等しいと言えるでしょう。
「期待リターンが10%だとすると、次の年に10%増えて、その次の年も10%…」
という考えはちょっと待ってください。
期待リターン=中央値ではないし、算術平均は複利(あるいは変動幅、リスク)を考慮されていないのです。
幾何平均リターン
幾何平均は、n個の数字を全て乗算した値の n乗根を取ることで求められます。比率や割合で変化するものに対してその平均を求めるときに使い、日常生活の中ではほぼ使わない概念です。
例えば、家賃が過去3年間で10%、15%、20%と上昇したときに、1年で平均何%上昇したかを算出する際に用いられます。
定義式を書くと以下となります。
幾何平均リターンG={(1+r1)(1+r2)…(1+rN)}1/N−1
幾何平均リターンは、複利効果込みで平均的にどのくらいの利回りであったか?を表す尺度です。
なぜ資産のリターンを評価するときに幾何平均リターンが大事かと言えば、複利の効果を考慮するためです。
算術平均と幾何平均の比較
これら2つの平均リターンには、幾何平均リターンG ≦ 算術平均リターンA という関係が必ず成り立ちます。
ここで、冒頭の平均リターンが+10%の金融商品についてそれぞれのリターンを比較してみましょう。
この商品の5年間のリターンは、+20%, -15%, -30%, +20%,+15%であったとします。
算術平均リターンAは、
A=(20%-15%-30%+20%+15%)/5=+10%
一方で、幾何平均リターンGは、
G=5√{(1+0.2)(1−0.15)(1-0.3)(1+0.2)(1+0.15)}−1=-0.29%
となります。
この「平均リターン10%の金融商品」に100万円を投資していたら、5年間で100×1.2×0.85×0.7×1.2×1.15≒98.5万円になり、トータルの投資結果はマイナスだった、という事になります。
算術平均と幾何平均のリターンの差は何か?
算術平均と幾何平均の差は、標準偏差(ボラティリティ)から生じるとされています。
一般的な近似式として、算術平均A、幾何平均G、標準偏差σとすると、
G = A-1/2σ^2
と表されます。
レバレッジETFや仮想通貨など、ボラティリティが高い金融商品ほど算術平均と幾何平均が乖離する傾向となります。
長期投資においては、幾何平均リターンで商品を評価する必要がありそうですね!
数年間のリターンは幾何平均で見る!
算術平均リターンは日常生活で使う単純な「平均」です。幾何平均リターンは複利効果を考慮した資産の「利回り」を表します。
幾何平均リターンは、資産を保有し続けた時の投資成果を表していると言えます。
「過去の平均リターンがN%だったから、来年もN%、その次の年もN%、その次の年も…」と複利で増えることを期待したいのならば、幾何平均として計算された数字をN%のNとして当てはめるべきでしょう。
幾何平均は、累積結果に至るまでに平均してどのくらいのペースで変化したかを表すものですから、複利効果込みの利回りを考慮する上で役立ちます。
余談ですが、雑誌や書籍や金融機関の資料で登場する過去の平均リターンは、算術平均で求められている事もあるそうなので、お気を付けくださいね。
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